医薬製剤におけるエンドトキシン試験の問題点

Low Endotoxin Recovery(LER)

エンドトキシン低回収(Low Endotoxin Recovery)

エンドトキシンが存在するにもかかわらず、リムルス試験で検出されないことがあります。試料中の共存物質による干渉ではなく、エンドトキシンがリムルス試薬のC因子前駆体と反応しない状態になり、検出されなくなるのです。このような試料をウサギを用いた発熱性試験に供すると陽性となることから、エンドトキシンの存在が確認できます。

エンドトキシン(LPS)のマスキング

University Regensburg(ドイツ)のJohannes Reichらは、次に述べる機構でこの現象を説明しています。
(PDA 8th Annual Global Conference on Pharmaceutical Microbiology、2013年10月21-23日、米国 Bethesda、および、日本PDA製薬学会 第20回年会、2013年12月3、4日、東京)

エンドトキシンはリボ多糖(LPS)であり、両親媒性分子なので水溶液中で会合して(I)のようにミセルを形成します。 少量の界面活性剤がリムルス試験の測定値を亢進させることはよく知られていますが、その状態は(II)にあたります。 さらに、界面活性剤の濃度が上がると、C因子前駆体との反応が抑制され(III)、界面活性剤が限界ミセル濃度を超えると(IV)エンドトキシンの回収率は5%未満となります。

リムルス試験のC因子前駆体に対して、LPSのミセルは活性を示しますが、LPSモノマーは活性を持たないことが知られています。界面活性剤によりLPSミセルが破壊されたモノマーになり、さらに界面活性剤のミセルに取り込まれてしまう(マスキング)ため、リムルス試験での回収率が低下すると考えられます。

マスキングは時間と温度に関係する

エンドトキシンのマスキングは瞬時に起こらず、動的な反応であることが、この問題を複雑なものとします。すなわち、スパイクを調整直後に測定すると、マスキングが起こる製剤組成であるにもかかわらず高い回収率で測定されます。試験は有効となり、製造後時間を経た製剤で生じているマスキングによる回収率の低下を見逃す可能性があります。

スパイクは調整後数時間~数日置いて測定して、マスキングが生じない製剤組成であることを確認する必要があります。

マスキングは医薬製剤の組成に関係する

タンパク質及び界面活性剤を含む製剤中のエンドトキシンがマスキングされる機構について検討したところ、製剤の成分によってマスキングの程度が大きく異なることがわかりました。マスキングには複数の要因がかかわります。

脱マスキングは可能か?

可能です。マスキングにより回収率が低下した試料でも条件を最適化することにより100%の回収率で測定することができます。製剤に含まれているタンパク質、界面活性剤、塩などの種類や濃度の違いにより、脱マスキングのアプローチは異なります。

Hyglosはエンドトキシンのマスキング/脱マスキングの反応機構についてのデータを蓄積してきました。
マスキングが生じうる医薬製剤のエンドトキシン試験方法の確立、マスキングを回避するための製剤処方の研究に応用することができます。

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